2006年 08月 19日
帰宅中、僕の乗った電車が人を轢いた。 消防、救急、警察、ブルーシート。 嫌悪感をあらわにする乗客達。メールする人、電話する人。 見ようとする人。目をそらす人。 読解不能な感情の飽和した車内。 しばらく扉は開きそうもない。 バラバラになった肉片を尻の下に感じながら、持っていた詩集をひらく。 其頃、私は、情愛豊な少年であつた。 其頃私の世界に総てのちかひは美しかった。 其頃の日日は、暗い、単調な私の生涯に、思出の細い燐寸を擦つた。 其頃、私の涙は薄荷水であつた。 其頃の懊悩は花綾であつた。 其頃私の恋い心は茴香であつた。 其頃私は神々よりも幸であつた。 其頃私は神々よりも幸であつた。 金子光晴 「翡翠の家」より一部抜粋 見知らぬ人の勝手な死は、全くもってアートにならない。
by ariphoto
| 2006-08-19 23:01
| daily
|
ファン申請 |
||